神鳥の卵 第15話


「え~違うでしょ?今のはこっちでしょ。ねぇ陛下」
「そうですか?私はこちらと仰っているように感じましたが」
「いえ、こちらかと」
「何をやってるんだお前たち?」

ロイドとセシル、咲世子がルルーシュを囲むように何やら話し込んでいたので、C.C.はひょいと、彼らの手元をのぞき見た。何やらカタログのようなものをずらりと広げ、ルルーシュに選ばせているようだった。ベビー服のカタログのようだが、こういうのはルルーシュの意見など聞かずにとりあえずかわいいのを選んで無理やり着せればいいだろうに。カタログの一冊を手にし、パラパラとめくりながらC.C.はとりあえず気になるものに付箋を貼った。

「陛下がご自分で選びたいといわれて」

皆が可愛い服ばかり選ぶ上に、女の子の服も普通に選ぶのが我慢ができないらしく、駄々をこね始めているのだという。もっと落ち着いた色の普通の服を寄越せというので、では本人に選ばせようという流れになったのだが。

「ですが、何故か意見が別れるんです」

セシルは困ったように言った。

「どういうことだ?」
「こちらに今4冊のカタログがあります」

ルルーシュの前には開かれたカタログが並んでいた。

「この中のどれがいいかを尋ねたところ、陛下はこれとおっしゃったんですが」

おっしゃったというのは例の羽根経由でルルーシュの感情を読み取り、自分の脳内で言葉として変換した事で得た情報だろう。セシルが指差したのは、ふわふわもこもこの生地でできた暖かそうなベビー服だった。一見するとキグルミのような作りだから、これを着たらぬいぐるみのような愛らしさになるだろう。

「ならこれがいい、ということだろう?」

ルルーシュが自分用に選ぶとはとても思えない服だが、乳児になったことで趣味が変わったのかもしれない。言葉ではなく、ある意味精神の繋がりで得た情報なのだから間違いはないだろう。
うそつき魔王の嘘も、この繋がりの前では無意味なはずだから。
そう思うのだが。

「違いますよぉ。陛下はこれって言ってるじゃないですか」

ロイドは別のものを指差した。
それは男の子向けのベビー服で、KMFの形を模したものだった。ロイドが選んだものは、当然ランスロットモデル。傍には紅蓮や蜃気楼なんかもあった。・・・こうやって見ると、ランスロットはヒーローに見えるが、蜃気楼や紅蓮は悪役にしか見えないな。これは、ランスロットのほうが売れるんじゃないか?「悪逆皇帝」「唯一の騎士」「歴史上ただ一人のナイトオブゼロ」というだけでも子供心をくすぐりそうだ。
だがルルーシュはさんざん辛酸を嘗めたこともあり、ランスロットは好きではない。だからこれは選ばないんじゃないか?とC.C.は眉を寄せた。

「いえ、ルルーシュ様はこちらと」

咲世子が選んだのはあからさまに女の子向けで、可愛らしいピンク色にレースがふんだんにあしらわれた少女趣味のものだった。
いやこれはないだろう、冗談で選んでるのかと思ったが、咲世子の顔は真剣で、絶対の自信があるようだった。
・・・これはどういうことなのだろう。
ルルーシュを伺うと「どれも違う!俺はそんなものは選んでいない!」と言っているように見える。

「ふむ、これは・・・どういうことなんだろうな?」
「ほらぁ、陛下はそれじゃないって言ってるでしょ」
「いえ、ロイドさんと咲世子さんのが違うと言っているんですよ」
「お二人のものが間違いかと」

どうやらルルーシュが「違う」と言っていることは理解しているらしい。
だが、自分以外の者が間違っているという意味で受け取っている。

「まあ待てお前たち。今気がついたことだが、この情報伝達にはものすごく致命的な欠点がある気がして仕方が無い」

致命的な欠点?と三人は目を瞬かせ「致命的すぎるだろう」とルルーシュは息を吐いた。ルルーシュが示した内容を三者三様に捉えている上に、この中に正解は無い。誤った情報を正しいと認識するなんて危険過ぎる。

「で、お前はどう見るんだルルーシュ」

ここはさっさとルルーシュに見解を述べさせるべきだと判断した。この男はとっくに何かしらの回答を導き出しているだろう。C.C.の判断は正しく、ルルーシュは眉を寄せ「俺の思考をCの世界を通し受信する。そしてそれを各自の脳の中で言葉に変換し、理解するんだったな?」と、長文を投げてきたが、それをC.C.はしっかりと受け取った。

「おそらくな」

情報が足りないから、この状況から推測するしか無い。だから断言はできないが、その可能性は高いだろうと思っている。「問題は、各自の脳内で言葉に変換しているという部分だ」と、ルルーシュは言うのだが、それの何が問題なのだろうか。

「どういう意味・・・いやまて、つまり各自の脳内で、お前の意志を誤変換しているということか」

それぞれの趣味丸出しのベビー服。
ルルーシュが「これが好みだ」という意志を飛ばしても、「これ」の部分を各自の好みのものに誤変換しているのだ。

「成る程な、じゃあもう一度お前の好みを説明してみてくれ」

数瞬後、それぞれがルルーシュの言葉を受け取り、パラパラとカタログをめくり始めた。ふむ、とC.C.もカタログをペラペラとめくる。
セシルはやはりふわふわもこもこで、色はパステルイエローを基準にし、至る所に赤いシミのようなものが飛び散っているデザインだった。その赤はまるで血にも見えて、スプラッタか?と思ってしまう。
ロイドはランスロット似のベビー服から離れない。
咲世子は先程よりフリフリで今度はスカートになっているものを選んできた。
そしてC.C.はシンプルで落ち着いた色で、見た目もちゃんと男の子向けと理解る服だった。「そう、そういうものだ!」とルルーシュのテンションが上った。
C.C.はやはりそうかと頷くが、三人はどうしてそれになるんだと不満気だ。

「つまりだ、より深くお前を理解しているかどうか、というのも重要なのだろうな。今回で言うならお前の普段着の好みを、という話だが」

ルルーシュの好みがわからないから、自分の好みが全面的に出てきてしまうのだろう。あるいはこういうものを着て欲しいという願望が、ルルーシュの好みを押しのけてしまうのか。・・・皇帝服もゼロ服も派手だったから、派手好きのコスプレ好きという印象いなっていてもおかしくはないが。

「まあ、私以上にお前を理解しているものなどいないから、私の受け取る情報が、何より正確だということだな」

ふふんと自信満々にいうC.C.に「お前それを理由にピザを強請る気なんだろう」と唸るルルーシュの言葉は、全員が理解した。


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多少理解力に差をつけてみる。
展開が亀ペース。
オレンジ君は何時ルルーシュに会えるんだろう。カワイソウニ(棒読み)

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